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 「送発電分離」が話題になってます。
 今までは一社の電力会社がそれぞれの地域の送電と発電を独占してきたのですが、それを分離して電力を自由化しよう、という事のようです。
 メディアではそうする事によって電気代が安くなるとか、風力発電や太陽光発電のような再生可能エネルギーの導入に弾みがつくとか、今までの癒着構造を変える事が出来るとか、いい事ばかりを強調しています。
 中には電力が自由化すれば日本の産業界の構造に革新的な変化が起きるとか、今までの癒着構造の中で出来上がった既得権益や非効率的なシステムなどが無くなり、いわばかつての「抵抗勢力」と言われていた人たちみたいなものが無くなって日本社会全体が変わるようなイメージを伝えていたり、社会の腐敗構造にメスが入るみたいな言い方の人もいます。
 そういった人たちによれば、今までは電力自由化などと叫ぼうものならさまざまな嫌がらせを受けたり左遷されたりして社会の隅に追いやられたりしたり、電力が自由化されていないから日本の産業界の競争力が損なわれている、というような事が日本では今まで起きていたそうです。

 おそらくそういった面もあるのでしょう。
 だからと言って電力を自由化すればすべての問題が解決するかのような言い方や、現在の電力の在り方が悪の巣窟であるかのような言い方にはちょっと疑問が残ります。
 この電力自由化論はいい事ばかり並べていますが、では自由化した時のデメリットは無いのでしょうか?
 ご存知の方もいるとは思うのですが、当然デメリットはあります。
 日本よりも先に電力が自由化されたアメリカではかつて大きな問題が起きています。
 それもそんなに昔の話ではありません。
 わずか10年ほど前の事です。
 詳しい事はウィキペディアで「エンロン」「カリフォルニア電力危機」「電力自由化」といった項目を読んでいただければわかると思うのですが、ものすごく大雑把に説明すると「かつて電力などのエネルギーを作って供給していたエンロンという会社が、自分でエネルギーを作って売るよりもどこかから安く買ってきてそれを売った方が儲かると、製造業から商社のような状態へと変わってしまい、さらにマネーゲームにのめり込み電力価格が乱高下したり、その影響で他の電力会社にも影響が出て電力の供給が足りなくなり、最終的には大規模な停電が頻発して社会全体に影響を与え、さらにはエンロン自体も破綻し金融界にも大ダメージを与えた」という感じの出来事です。
 電力自由化の負の部分です。
 これはアメリカの話であって日本では起きない、などと言えるのでしょうか?
 日本にもライブドアのように本業そっちのけでマネーゲームにのめり込んだ企業がありました。
 そのような企業が再び現れて市場を通じて電力業界に変な影響を与える、という可能性がゼロと言えるのでしょうか?
 また、そのような事が起きなかったとしても電力が自由化され価格競争が起きる事で市場原理が働き、電気料金が下がるはずだ、というような主張もありますが電力価格が価格競争にさらされた結果安いが供給能力の低い会社に顧客が殺到し供給が足りなくなって大規模停電が起きたり、価格競争を続けた結果経営が立ち行かなくなった電力会社が潰れて大停電が起きたり金融界にダメージを与える、というような事が無いと言えるのでしょうか?
 もちろんそれらのリスクを承知の上でなお電力は自由化するべきだ、というのならばかまいませんがそのリスクというのが具体的にどういうモノかわかっているのでしょうか?
 例えばマネーゲームによる金融界へのダメージ。
 ライブドア事件の時もかなりのダメージでしたが、電気という公共性の高く時価総額も大きいであろう企業による市場・金融界へのダメージはその比ではないでしょう。
 市場の混乱だけではありません。
 電力やガスなど公共性の高いインフラ関連の銘柄は経営が安定しているので、年金や保険などの基金の投資先として選ばれることが多いです。
 そういうところが破たんする。
 という事は、貰えるはずの年金が減ったり無くなったり、受け取れるはずの保険金が減額されたり受け取れなかったりもするわけです。
 保険の中には生命保険や医療保険など命に関わるものや損害保険など生活に関わるもの、さらには養老保険とか学資保険など人生設計に影響を与えるものも含まれます。
 そういったものに影響が出るという事はライブドア事件の時のように、一部の投資家の人たちが酷い目に遭ったという程度の被害では済みません。
 場合によっては日本人全員の人生に少なからず影響を与えてしまうかもしれないわけです。
 そしてもう一つ停電に関して。
 先の震災の際の計画停電でもわかりましたが、現在の日本人の生活というのは電力に大きく依存しています。
 前もって「何月何日の何時からどこで何時間停電します」とわかっていた「計画停電」でさえ、あれだけの混乱とクレームを巻き起こし産業界にもダメージを与えました。
 あらかじめ分かっていたにもかかわらずあの騒ぎです。
 そのような停電が自由化によって「いつどこでどの程度の時間停電しているかわからない」というような状況になったらどうなるのでしょう?
 日本社会はその停電に対応できるのでしょうか?
 日本は今まで電気代が高いとは言いながらも、世界的に見て最高品質の電力供給を受けていました。
 それは電圧が安定していて停電もまず起こらないという、我々からすれば当たり前に感じていますが世界的に見てかなりハイレベルな電力事情のようです。
 そして日本社会のシステムはそのハイレベルな状態を「当たり前」とし、そのハイレベルな状態が永遠に続くという事を前提に設計されています。
 計画停電の時に問題視された事を思い出してみてください。
 電車が定時に来なかったり町が暗くなったり…
 まぁその程度ならいいでしょう。
 しかし、医療機関が停電になって患者さんの命が危うくなったり、自宅で療養介護している人の生命維持装置に影響が出たりという、人間の命に関わるような事も起きました。
 信号が止まり交差点で事故が起こりそうになったりもするでしょう。
 家電が壊れたり、場合によっては通電再開時に発火するというような危険もあったそうです。
 一部地域では水道も止まったそうですし、エレベーターも使えません。
 コンビニのレジも機能しないでしょうし、自動販売機や自動改札などどうなるか分かったものではありません。
 計画停電であらかじめ分かっていたからこそ大きな混乱も無く対策を準備する事で対処する事も出来ましたが、自由化による大規模停電はいつ起きるかわかりません。
 突然電車が止まって閉じ込められたり、エレベーターが止まって閉じ込められたり、帰宅できなくなったり、自宅の家電が燃え上がって火事になったり、生命維持装置が止まって病人が無くなったり、信号が止まって交通事故が多発したり…
 さらにはそれらの情報を得るためのテレビやラジオも使えないかもしれませんし、電話なども使えず連絡も状況把握も難しくなるかもしれません。
 現在の日本で電力がある日突然広範囲で長時間止まる、というのは何が起きるかわからない可能性が高いです。
 それが一度ぐらいなら何とか耐えられるでしょうけど(実際、電線がクレーンによって切断され電気が数時間止まったという事件もありましたが…)、数カ月から数年に渡って頻繁に起きるとなると日本社会は耐えられないのではないでしょうか。
 電力自由化をする事が悪いというつもりはありませんが、メリットだけでなくデメリットも説明し、そのデメリットに対する対策をあらかじめ取れるような仕組みを作っておく(例えば、各家庭や会社に自家発電機や蓄電池を備え付けるなど)というような事も必要なのではないでしょうか。
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